いつだったか好きな女の子に頭を撫でてもらったことがある。

其処は二人きりの部室で、僕が彼女に君のことが好きだと思いを告げた後の部室だった。
いつも私にくれる好意の言葉は冗談だと思っていたと彼女は言った。
僕はまた本当に君のことが好きだと彼女に告げてうつむく。
僕こうしてつらそうにしていれば彼女は同情をむけずにはいられない子だと知っていた。
「ごめんね、私が紛らわしい態度をとってしまったから」
僕は悲しそうな表情する裏で内心ほくそえんでいた。
そうだ、もっと僕のほうを向いてくれと。
「泣かないで」
そういって彼女は困ったような顔をして僕の頭を撫でた。
そんな時間しばらくが続いたけれど、彼女が僕の頭を撫でてくれているという事実からは自分の行動がうまくいっているという事実の確認以上のことは思わなかった。
時計の針が過ぎていった。僕はこんなことをしながら時計の針を確認する余裕があった。余裕があったのだから本当に演技でしかなかったのだろう。
彼女が帰る予定の時間が近づいていた。
時間もないことだし適当な言葉を投げて今日のところは終わりにしようとふと彼女の顔を見上げて、顔を見合せ数秒が過ぎる。
彼女が泣きだしてしまった。
ごめんねごめんねと繰り返す彼女を前に僕はどうすればいいのかわからなかった。
目の前で泣いている女の子を慰めるすべなどは知らなかった。
「泣かないで」
先ほどまで僕がかけられていた言葉を彼女にかけて頭を撫でる。
僕はやりすぎてしまったと思った。
泣いている彼女を見ると胸が痛くなることを知った。
「僕はつらくないよ」
「そんなことない」
「全部嘘だから。好きだってのだけ本当だけどつらそうにしてたのは嘘で君の気を引くためにうつむいていただけだから」
「そうなんだ」
「ほら、もう出ないと。時間でしょ」
僕はそう言ってこの場をとにかく終わりにしようとする。
その後も彼女を慰める。
ひとまず泣き終わって落ち着いた彼女を連れて靴を履いて外へ彼女を連れていく。
「つらくないって言ってたのはうそだよね」
「じゃあ君は僕の演技を見て勘違いしちゃったんだ。内心よく騙されるなってほくそえんでたよ」
「私は自分の目で見たものしか信じないから」
「俯きながら時計の針を確認していたし、ほら僕は君は同情しやすい女の子だって言っていただろ。それを利用したんだよ」
疑う彼女を説得するために客観的な僕が演技をしていたという事実を羅列する。
こうして僕は次々と自分の行った不正を彼女に告げる。
自分が汚い人間だと知られてしまうことよりも彼女が泣かないでいてくれることのほうが大切だった。
その後も僕が嘘をついていただけだと繰り返し弁解すると僕が全部嘘だと告げた後もしばらくは何か言いたげにしていていたが、そのうち彼女と何とか雑談ができるようになった。
また今度スターバックス・コーヒーに行こうという約束をしてその日は別れた。

 

もうほとんど連絡を取ることもなくなってしまった彼女を思いながらそんな光景を思い返す。 

あのときはほとんど感触を感じなかったけれど、叶うのならばもう一度彼女に頭を撫でてほしいと思っていた。
あの時どうでもいいとばかり思っていた彼女からの同情が今になって何よりほしいと願っていた。